症状、スクリーニング、早期発見の重要性
糖尿病とうつ病の併存における最も大きな課題の一つは、うつ病が見過ごされがちであるという点です。早期に気づき、適切に対応することが、悪循環を断ち切る鍵となります。
4.1 見過ごされる問題
糖尿病患者がうつ病を併発していても、その約半数は自身がうつ病であることに気づいていないという憂慮すべき報告があります 1。その主な理由は、うつ病の身体症状(倦怠感、食欲不振、睡眠障害など)が、糖尿病の血糖コントロール不良による症状と非常によく似ているためです 1。患者自身も家族も、そして時には医療者でさえも、これらのサインを「糖尿病のせい」と誤って解釈してしまい、根底にあるうつ病を見逃してしまうのです。
4.2 注意すべき症状:ご本人とご家族のためのガイド
うつ病のサインは、こころの不調だけでなく、からだの不調としても現れます。以下のような変化に気づいたら、注意が必要です 1。
こころのサイン
- 以前は楽しめていた活動に興味が持てない、または楽しめない
- 気分が落ち込む、悲しい、空虚な気持ちが続く
- 自分はダメな人間だと感じたり、罪悪感を覚えたりする
- 集中力が続かない、物事を決断できない
- 死について考えることがある
からだのサイン
- 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
- 眠れない、途中で目が覚める、または寝過ぎてしまう
- 疲れやすく、気力がない
- 動きや話し方が遅くなる
- 原因不明の痛みや不快感
4.3 スクリーニングの役割:見えないものを見えるようにする
このような見過ごしのリスクを減らすため、日本糖尿病学会を含む多くの専門機関が、糖尿病の日常診療の一環としてうつ病のスクリーニングを推奨しています 5。スクリーニングは、質問票などを用いてうつ病の可能性を評価する簡便な方法であり、診断そのものではありませんが、専門的な評価が必要かどうかを判断するための重要な第一歩となります。広く使われているツールの一つに、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)があります 14。
4.4 実用的なツール:PHQ-9(こころとからだの質問票)の解説
PHQ-9は、うつ病の診断基準に基づいた9つの質問で構成されており、ご自身で簡単に現在の心の状態をチェックすることができます。このツールを活用することで、漠然とした「気分の落ち込み」を客観的なスコアとして捉えることが可能になります。これにより、ご自身の状態をより具体的に医療専門家(医師や訪問看護師など)に伝えやすくなり、適切なサポートにつながるきっかけとなります。
重要: この質問票はあくまでスクリーニングツールであり、自己判断でうつ病と診断するためのものではありません。
引用文献
1:糖尿病とこころ – スマート・ライフ・プロジェクト, 8月 31, 2025
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-05-006
5:糖尿病治療ガイド, 8月 31, 2025 https://www.jds.or.jp/uploads/fckeditor/files/uid000025_67756964655F323031382D323031392E706466.pdf
14. PHQ(Patient Health Questionnaire)について, 8月 31, 2025 https://n-seiryo.repo.nii.ac.jp/record/2014/files/nsu_202201.pdf


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