【第1回】 心と体はつながっている ~運動とメンタルの密接な関係~
「病は気から」を科学する
私たち訪問看護ステーションが提供する訪問リハビリの現場では、利用者様の「心の状態」がリハビリの成果を大きく左右する場面に日々遭遇します。 「今日は気分が乗らない」と仰る日はお身体の動きが硬く、「孫が来るから歩けるようになりたい」と意欲的な日は驚くほど足が出る。これは単なる偶然ではなく、運動心理学的な根拠があります。
地域医療における「心身相関」
在宅療養をされている方は、病気や怪我による不安、社会的な孤立感など、心理的なストレスを抱えやすい環境にあります。 この連載では、全6回にわたり、運動と心理の相関関係を紐解きながら、私たちが行っている訪問リハビリがどのように心身両面にアプローチしているかをご紹介します。
運動心理学
スポーツや身体運動における「心(心理的要因)」と「体(身体的パフォーマンス)」の相互関係を科学的に研究する学問分野です。
以前は「アスリートが勝つためのメンタルトレーニング」というイメージが強かったですが、現在では「リハビリテーション」「健康増進」「高齢者の介護予防」など、医療や福祉の現場でも非常に重要視されています。
訪問看護やリハビリの現場で役立つ視点として、大きく分けて2つの方向性があります。

1. 「心」が「運動」に与える影響
心理状態が、パフォーマンスや運動の結果にどう影響するかを研究します。
- 覚醒水準とパフォーマンス:
- リラックスしすぎても、緊張しすぎても力は発揮できません。「適度な興奮(ゾーン)」がいかにパフォーマンスを最大化するか(逆U字仮説など)。
- あがり・不安:
- 不安がどのように筋肉の硬直や動作の乱れを生むか。
- 自己効力感(セルフ・エフィカシー):
- 「自分ならできる」という確信が、実際の運動遂行能力をどう高めるか。
- 動機づけ(モチベーション):
- 何が人を運動に駆り立て、継続させるのか(内発的動機づけ vs 外発的動機づけ)。
2. 「運動」が「心」に与える影響
身体を動かすことが、精神的な健康や人格形成にどう影響するかを研究します。
- メンタルヘルス:
- 運動によるストレス解消、抗うつ効果、不安の低減。
- 人格形成:
- スポーツやリハビリを通じた忍耐力、協調性、達成感の醸成。
- QOL(生活の質):
- 運動習慣がいかに主観的な幸福感を高めるか。
医療・リハビリ現場での応用(リハビリテーション心理学)
運動心理学の知見は、リハビリの現場で「アドヒアランス(治療への能動的参加と継続)」を高めるために応用されています。
- 目標設定理論:
- 遠すぎる目標(「元通り歩く」)ではなく、達成可能な短期目標(「トイレまで歩く」)を設定することで、意欲を維持させる技術。
- イメージトレーニング:
- 実際に体を動かせない時期でも、脳内で動作をイメージすることで神経回路を維持・活性化させる手法。
- 社会的支援:
- 指導者(理学療法士や看護師)の声掛けや関わり方が、患者の自律性をどう引き出すか。
つまり、運動心理学とは「心を整えて体を動かしやすくする技術」であり、同時に「体を動かすことで心を元気にする科学」と言えます。


コメントを残す