【連載コラム】訪問看護師のメンタルヘルス対策(第4回)産業医がいない?個人情報は?西東京の小規模ステーションが乗り越えるべきハードル

これまで50人未満の小規模事業所では「当分の間、努力義務」とされていましたが、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10(2028)年4月1日から労働者数50人未満の事業場においてもストレスチェックの実施が完全義務化されることが決まりました

本連載の第1回:小規模ステーションが今から備えるべき理由でもお伝えした通り、制度への準備は早めの着手が重要です

しかし、西東京エリアの小規模な訪問看護ステーションが実際に導入しようとすると、「産業医がいない」「結果が見られないか不安」「何から手を付ければいいかわからない」という運用上の大きな壁にぶつかります。これらのハードルを克服する具体策と導入スケジュールを解説します

1. そもそもなぜ、ストレスチェックには「産業医(医師)」が必要なのか?

「アンケートをとるだけなら社内でもできるのでは?」と思われがちですが、ストレスチェック制度の運用には医師(産業医)等の専門職の関与が法律で義務付けられています。これには明確な理由があります。

  • 医学的知見に基づく判定(実施者):
    ストレスチェックの「実施者」になれるのは、法律上、医師・保健師等に限られています。単なる点数計算ではなく、医学的観点から「高ストレス状態」にあるかを正しく評価するためです。
  • 「面接指導」を行える唯一の専門職:
    高ストレスと判定された職員が希望した場合、医師による「面接指導」を行います。心の不調や過重労働によるリスクを医学的に判断できるのは医師だけです。
  • 事業主への「就業上の措置」に関する意見書:
    面接指導の後、医師は事業者に対して「残業の制限」「夜勤回数の見直し」「業務量の調整」といった就業上の措置について正式な医学的意見書を出します。事業者が安全配慮義務を果たすためには、医師の客観的な意見が不可欠です。

2. 小規模ステーションで「外部専門機関への委託」が必要な3つの理由

小規模な訪問看護ステーションでは、管理者が事業主(経営者)を兼ねているケースが多くあります。この場合、自社内だけで制度を完結させることは法的に不可能であり、外部の専門Webサービスや実施機関への委託が実質的に必須となります

  • 理由①:人事権を持つ人は「実務担当者」になれない(法的規制)
    人事権や評価権を持つ事業主や管理者は、法律上、ストレスチェックの「実施者」はもちろん、データの回収や管理を行う「実施事務従事者」にもなることができません。自社内に人事権を持たない専任事務員を置けない場合は、外部委託が唯一の解決策となります。
  • 理由②:「所長に見られるかも」という心理的不安の完全排除
    小規模な現場では、職員が「結果を所長に見られて評価に影響するのでは」と一番不安になりやすい環境です。配布・回収・集計を外部クラウドや専門機関に完全委託し、「事業主も個人結果を一切見られない仕組み」を構築することが、職員の回答の信頼性と安心感につながります。
  • 理由③:有資格者の手配と個人情報保護のコスト削減
    自前で実施者(医師・保健師)を探して契約し、厳重な紙の鍵付き保管庫を用意する手間とコストは膨大です。外部専門機関を活用すれば、有資格者の手配からセキュリティが確保されたデータ管理までを低コストかつ安全に完結できます。

3. 東京産業保健総合支援センターを活用した「制度導入手続き」の流れ

「何から手を付ければいいかわからない」という場合、厚生労働省の傘下機関である東京産業保健総合支援センター(さんぽセンター)の無料相談サービスを活用するのが最も確実です

専門スタッフ(社会保険労務士、臨床心理士、保健師等)が訪問看護ステーションへの個別訪問(出張)やオンライン相談で対応し、以下のステップで導入手続きをサポートしてくれます

【ステップ1:現状把握と個別相談】
専門スタッフがステーションの現状(職員数や勤務形態)をヒアリングし、適した導入計画を助言。

【ステップ2:社内規程(ルール)の作成支援】
「実施体制」「結果の保存」「プライバシー保護」などを定めた社内規程のひな形作成をサポート。

【ステップ3:職員向け説明・管理職研修の実施】
不安を解消するための職員説明会や、管理職向けのラインケア研修(無料講師派遣等)を実施。

【ステップ4:実施後の職場環境改善アドバイス】
集団分析結果をもとに、業務量の調整や職場環境改善に向けた具体策をアドバイス。

4. 【実践】小規模ステーション向け「導入スケジュール」の例

無理なくスムーズにストレスチェックを実施するための標準的なスケジュール例です。実施予定月の半年前から準備を進めていくのが理想的です

時期実施内容 PDF
6か月前・制度概要を確認し、事業所内の担当者を決定する

・外部相談先(さんぽセンター等)や委託業者を調べる
4か月前・ウェブ回答か紙媒体か等の実施方法を決定する

・社内規程(ルール)を作成し、職員説明用の資料を準備する
2か月前・職員説明会を実施し、プライバシー保護などを丁寧に伝える

・対象者を確認し、実施日程を確定する
実施月・ストレスチェックを実施する

・実施者から本人へ直接結果を通知する

・高ストレス者へ医師の面接指導を案内する
実施後・個人が特定されない形で集団分析を行う

・職場環境改善に取り組み、次年度に向けた振り返りを行う

5. 「産業医がいない」を西東京の公的資源で解決する

50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、「面接指導をしてくれる医師がいない」という問題が生じます。自前で産業医と契約しなくても、地域の公的機関を活用することで解決できます

  • 多摩東部地域産業保健センターの無料活用:
    西東京市、東村山市、清瀬市、東久留米市、小平市、国分寺市、国立市、武蔵野市、三鷹市、小金井市を対象とする多摩東部地域産業保健センターでは、地域医師会の協力のもと、登録医師による面接指導やメンタルヘルス相談を無料で提供しています。
  • 外部専門機関との組み合わせ:
    ストレスチェックの配布・回収・集計は外部の専門Webサービス等に委託し、高ストレス者が出た際の面接指導のみ多摩東部地域産業保健センターに依頼するのが、小規模ステーションで最もスムーズな運用方法です。

6. 「距離が近すぎて結果が見られそう」という不安の解消

小規模なステーションでは、管理者と職員の距離が近い分、「結果を事業所に見られるのでは」「評価に影響するのでは」という不安が生まれやすくなります

本連載の第2回:訪問看護特有のストレスで触れた通り、訪問看護師は日々強いプレッシャーの中で働いています。受検に対する不信感を持たせないため、以下のルール徹底が不可欠です

  • 受検結果の非開示徹底:
    個人の受検結果は、本人の同意がない限り事業者に開示されません。結果は外部委託先等の実施者から直接本人へ届きます。
  • 人事権を持つ管理者の役割分離:
    評価権を持つ管理者は、調査票の回収やデータ管理を行う「実施事務従事者」になれません。
  • 不利益取扱いの禁止:
    受検しないことや高ストレスの申出を理由に、解雇、配置転換、評価の引き下げ等を行うことは法律で禁止されています。この旨を社内規程に定め、職員へ周知することが必須です。

7. 西東京エリアでの実践的な実施体制

役割担当主体主な業務内容
事業者・法人ステーション運営法人導入方針の決定、社内ルールの作成・周知、職場環境改善
制度導入支援東京産業保健総合支援センター社内規程作成サポート、個別訪問支援、研修・各種アドバイス(無料)
実施者・システム外部専門機関(クラウドサービス等)ストレスチェックの配布・回収・集計、高ストレス者の判定
面接指導医多摩東部地域産業保健センター等高ストレス者からの申出に基づく医師面接(無料)
管理者訪問看護ステーション管理者受検しやすい雰囲気作り、第3回:一人で抱え込ませない仕組みの構築

自前で産業医を抱え込まなくても、外部専門機関のWebサービスと東京産業保健総合支援センターや多摩東部地域産業保健センターなどの公的リソースを組み合わせれば、コストを抑えて安全なメンタルヘルス対策が可能です

次回(第5回)は連載の最終回として、「大きな制度より小さな習慣!離職を防ぎ、安心して働ける訪問看護ステーションのつくり方」をお届けします


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参考・引用元一覧


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