これまでの連載では、ストレス(気の張り)と免疫の関係から始まり、睡眠によるメンテナンス、腸内環境を整える食事術についてお話ししてきました。
第7回となる今回のテーマは、「笑いとコミュニケーション」です。
昔から「笑う門には福来る」「笑いは百薬の長」と言われますが、精神神経免疫学(PNI)の研究が進んだ現在、これは単なる迷信ではなく、科学的根拠のある「免疫力アップの最強の処方箋」であることが証明されています。
「笑い」がNK(ナチュラルキラー)細胞を覚醒させる
私たちの体内には、ウイルスに感染した細胞や、日々発生するがん細胞などをいち早く見つけ出して攻撃する、言わば「特殊部隊」のような免疫細胞が存在します。それがNK(ナチュラルキラー)細胞です。
私たちが心から笑うと、脳の前頭葉という部分が興奮し、情報伝達物質(善玉ペプチド)が大量に分泌されます。この物質が血液に乗って全身を巡り、NK細胞の表面にピタッとくっつくと、NK細胞がパッと覚醒し、攻撃力(活性)が劇的に上昇するのです。
逆に、悲しみや強いストレス(慢性的な気の張り)を抱え込んでいると、NK細胞の働きはガクッと低下してしまいます。笑うことは、最前線で戦う特殊部隊に最強の武器を支給するようなものなのです。

忙しくて笑う暇がない?「作り笑い」でもOK!
「そうは言っても、毎日忙しくてお腹の底から笑うような出来事なんてない……」 特に、重症の患者様と向き合う訪問看護師や、終わりの見えない介護・受験勉強を支えるご家族にとって、毎日は真剣勝負です。
しかし、素晴らしい朗報があります。実は、脳は「本当の笑い」と「作り笑い」を区別するのがとても苦手なのです。
心理学と生理学の分野には「顔面フィードバック仮説」という有名な理論があります。面白くなくても、意識して「口角を上げて笑顔の表情を作る」だけで、脳は「あ、今笑っているんだな(=楽しいんだな)」と勘違いをしてくれます。 その結果、本気で笑った時と同じようにストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が減り、自律神経がリラックスモード(副交感神経優位)へと切り替わります。
訪問の移動中、田無やひばりヶ丘の街を自転車で走りながら、マスクの下で少しだけ口角を上げてみてください。それだけで、あなたの免疫システムはしっかりと強化されています。
顔面フィードバック仮説は、令和8年版 公認心理師試験出基準・ブループリントにも含まれる重要な仮説です。ブループリントの項目は以下。
大項目:9 感情及び人格
中項目:(1)感情に関する理論と感情喚起の機序 および ⑵ 感情が行動に及ぼす影響
「つながり」が生み出す癒やしのホルモン・オキシトシン
笑いに加えて、もう一つ免疫を強力にサポートするのが「人との温かいコミュニケーション」です。
気の置けない同僚との雑談や、利用者様との何気ない世間話。このような「人との心地よい関わり」を持った時、脳内ではオキシトシン(別名:愛情ホルモン、絆ホルモン)が分泌されます。
オキシトシンには、第2回・第3回でお話しした「過剰な交感神経の興奮(気の張りすぎ)」をスッと鎮め、心身の消耗を防ぐ強力な作用があります。 事務所に戻ってきて「今日こんなことがあってね……」とスタッフ同士で笑い合い、苦労を労う時間は、決して無駄話ではありません。お互いのオキシトシンを分泌させ合い、チーム全体の免疫力を高める「集団免疫アップ・セッション」なのです。

まとめと次回予告
「笑い」と「温かいコミュニケーション」は、お金もかからず、副作用もなく、いつでもどこでも引き出せる最強の免疫賦活(ふかつ)剤です。 プロフェッショナルとして気を張る時間も大切ですが、1日の中に意図的に「フッと口角を上げる時間」や「誰かと他愛のない話をする時間」を作ってみてくださいね。
さて、長期にわたってお届けしてきた「病は気から」の科学シリーズも、次回の第8回でいよいよ最終回となります。 これまでの「ストレス・睡眠・食事・笑い」を総括し、忙しい現代人が心と体を守り抜くための「トータル・セルフケアの極意」をお伝えして締めくくりたいと思います。お楽しみに!
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参考・引用文献(Webサイトから閲覧可能な情報を含む)
- Berk, L. S., et al. (1989). “Neuroendocrine and stress hormone changes during mirthful laughter.” The American Journal of the Medical Sciences, 298(6), 390-396. (※「笑い」がストレスホルモン(コルチゾールやアドレナリン)を減少させることを医学的に証明した、精神神経免疫学における古典的かつ非常に有名な研究です)
- Bennett, M. P., & Lengacher, C. (2008). “Humor and Laughter May Influence Health: III. Laughter and Health Outcomes.” Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 5(1), 37-40. (※笑いがNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を高め、免疫系にポジティブな影響を与えるメカニズムについてのレビュー論文です)
- Strack, F., Martin, L. L., & Stepper, S. (1988). “Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis.” Journal of Personality and Social Psychology, 54(5), 768. (※「顔面フィードバック仮説」。ペンを横にくわえて(擬似的に笑顔を作って)漫画を読むと、普通に読むよりも「面白い」と感じることを証明し、表情が脳の認識に影響を与えることを示した有名な実験です)
- Uvnäs-Moberg, K. (1998). “Oxytocin may mediate the benefits of positive social interaction and emotions.” Psychoneuroendocrinology, 23(8), 819-835. (※良好な社会的コミュニケーションがオキシトシンの分泌を促し、それが抗ストレス作用や免疫系の保護につながることを解説した論文です)


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